ひょう被害生産者インタビューVol.1

被害について理解を示してくれる多くの方に支えられています

あづま果樹園 専務 吾妻正一さん

あづま果樹園 専務 吾妻正一さん

たった数分の出来事がもたらした大きな被害

令和4年6月、福島県内各地に降ったひょう。被害の大きかった地域の1つ、福島市飯坂地区に畑を構えるあづま果樹園も、甚大な被害を受けた農園の1つです。

さくらんぼ、もも、なし、ぶどう、りんごと幅広い果物の栽培を行う同園の広さは全体で約13町。東京ドーム3個弱分にも及ぶ畑を日々管理し、くだもの王国福島を支えている果樹園のひとつです。

桃の収穫時期であるこの夏。例年であれば収穫前から贈答用の予約注文を何千件と受け付けるはずが「今年はひょうの被害で、どのくらいの桃の収穫が見込めるか本当に未知数でした。お客様に迷惑をかけるわけにはいかないと、最初からお断りするケースが数多くありました。」そんな心苦しい気持ちを聞かせてくれたのは、あづま果樹園専務の吾妻正一(あづましょういち)さんです。

実際に収穫時期を迎えてみると、品種と場所に大きな差があり予想していたよりは収穫できたそうですが、それでも被害の大きかった大笹生周辺にある桃畑は、まともに収穫できるものが限りなく少ない状態だったそうです。

また今年は、例年以上に販売に時間をかけたそうで「できる限り傷の少ないものを販売しましたし、傷のことを伝えながら販売しました。理解を示してくれる方に多く支えられました。直接お伝えできない方には現状が伝わるよう、全商品に説明するチラシを入れて対応させて頂きました」と吾妻さん。これから梨、ぶどう、りんごと続く中で、いかにしてお客様に理解していただけるかが、今年の課題ということです。

9月に入り収穫を迎えた梨は、桃以上に被害が大きいそうで「8〜9割の梨の傷が目立つ状態。りんごはもっとひどい可能性が高いです」と悔しさを滲ませます。

「良いものをお客様に食べて欲しい思いで日々働いていますが、今は既にひょうで傷つき、通常に栽培しても通常に売れないことがわかっているものを育てています。そう思いながら通常の作業をする中で、色々な葛藤があります。本当は全部落としても良いくらい傷があるんですが、全部落としてしまうと、実に栄養がいかない分、枝が伸びすぎてしまったり、色々な部分で弊害が出てしまうんです。ダメとわかっていても、普通通り栽培しなければならないのです」そんな苦しい現状を教えてくれました。

6月に起こったほんの数分の出来事(降ひょう)が、果樹農家の1年を大きく左右する現実と深刻さを、私たち消費者はどれだけ理解できているのかを深く考えさせられます。

いつ何が起こるか予測不能の気候変動

昨年の霜被害に続く今年のひょう被害。予測のできない気候変動についてのお考えを伺うと「私たち人間が肌身に変化を感じるということは、だいぶおかしいということ。植物の世界に相当な変化が起きていると感じます」と吾妻さん。
例えば、果樹栽培にとって長雨が続くことは大きな問題。今まで起こらなかったような病気が発生したり、今までいなかった虫や病原菌が増えたり…。逆に雨が少ないと虫の発生が多くなったりするそうです。

そんな中注目されている1つが、さくらんぼやぶどう畑で増えている“雨除けハウス”だそうで「桃でも雨除け施設を作って、少しでも雨に当てないとか、そういう栽培に徐々に変わりつつあるんじゃないかなと思っています。うちも雨よけの桃がありますが、そういった施設に転換していく時期なのかな…とヒシヒシと感じています」と吾妻さん。

もちろん導入には大きな費用がかかるだけでなく、新しい挑戦には様々な苦労がつきものですが「やっぱり農家は皆、良いものを作りたいという想いが大前提にある。良いもの作るためにはどうしたらいい?を常に考えています」と、果樹農家として使命感に支えられ、前向きに取り組む姿を感じました。

加工品に新たな活路を

また、今年はひょう被害が大きかった桃を桃ジュース等の加工に多く回したそうで「予期せぬ自然災害に遭った場合でも、加工品はある意味逃げ道になるというのが今回、改めてわかりました。自分たちのスキルを上げることに繋がりましたし、そう考えれば今回のひょう被害も悪いことだらけではなかったということですね」と吾妻さん。

しかしまだまだ福島の加工品には課題も多いそうで「他の果樹園でもみんなやりたいと思っていると思います。けれど、二足の草鞋でなかなか難しい。六次化(農家が加工品までを作ること)を進めるには、人員や人件費はもちろん、建屋や作業場、機械等など色々なものが必要になってきます。そういう部分をもっと公的に充実していただければ、福島の農業が盛り上がっていくのでは」と期待と希望を語っていただきました。

さらに、農家の高齢化が課題となっていますが「自分たちは与えられた使命でやっている部分があります。でも今後、自分の子供たちに同じように農家をさせたいかと聞かれたら、本音はNOです。普通に栽培しているだけでも肥料も農薬も機械も全てが高騰しています。そんな中で異常気象になり思うように果樹が取れず、収益とならない…となると、やはり苦労だけが先走ってしまい…。うちのような形態でやっていても、やっぱり実際問題は厳しく、自助努力だけではどうにもならないことが起こっています。今の20代30代の若い世代が、もっともっと農業という分野に目を向けてもらえるような取り組みが広がっていったら、農業の底上げになっていくのではと思います」と今後の農業全体の課題もお話くださいました。